本学会会員が自身の研究テーマについて わかりやすく語ります
近藤喜重郎  在外ロシア正教会史の記号論的研究
高井ヘラー 由紀  台湾キリスト教史
馬渕 彰  イギリス・メソディスト運動の歴史研究
 
  会員の研究紹介
  辻 直人  キリスト教学校教育史研究
No.4 2017-5-22
Q:研究テーマは何でしょうか?
A:研究テーマの1つはキリスト教学校教育史研究です。近年は、例えば、日本のキリスト教学校指導者が国家政策に従順な姿勢を鮮明にしていく様子を研究しています。20世紀初頭の在米日系人学生や北米への日本人留学生に関する研究もしています。

Q:史料や方法論は?
A:教育学的観点から、人生の転機や時代の変化が見られる場面での人々の苦悩や決断、対応などについて考察しています。基本史料は、各キリスト教学校所蔵の史料やキリスト教学校教育同盟所蔵の史料です。公文書や外交文書、海外の各大学や教派・団体などの史料室が所蔵している史料もよく利用しています。
近年はインターネットでの史料公開も増えていますが、現地に赴いて史料を閲覧することを大事にしています。というのも、その土地に行かなければ分からない「空気」を感じることも、史料解読の重要な鍵と考えるからです。

Q:どんな発見がありましたか?
A:近年は、アメリカで多く史料を発見しました。元牧師の成瀬仁蔵は日本女子大学を創設しましたが、晩年は全ての宗教や文明は一つに帰すという帰一思想を展開するようになります。その帰一思想を成瀬が熟成させる過程の貴重な史料(従来の研究で言われていた時期よりも早い段階の史料)を昨年シカゴ大学で発見しました。
またアメリカでの調査で、YMCAが在米日本人学生の連携を作る目的で発行した定期刊行物も発見し、同志社総長や初代国際基督教大学学長を務めた湯浅八郎もその活動に留学時代関わっていたことも調査で分かりました。
『キリスト教史学』第70集に掲載している論文もアメリカでの調査で発見した史料を使って書きました。

Q:今後の展開、展望は?
A:やり残した作業は多々あります。例えば、戦時下では軍国教育を推進していた人たちが、戦後は個人の尊重を謳った旧教育基本法を実現するための施策を練ったのですが、そのような変化が何故起こったのか、当時の教育者たちの思いに少しでも迫ることができたら、と考えています。
20世紀の在米日本人学生について手つかずのままの史料も多く残っていて、研究としてまとめたいと願っています。
これらの作業を通じて、教育の本質、人が生きることについての本質的議論を深めていきたいと思います。
(2008年度学術奨励賞受賞 北陸学院大学)
  近藤喜重郎  在外ロシア正教会史の記号論的研究
No.3 2016-11-1
Q: 研究テーマは何でしょうか?
A: 1917年のロシア革命後、ロシア正教会の指導者は無神論者の統治をめぐり賛否に分かれて意見を戦わせました。意見の相違は後に教会における対話の分断を招き、組織的な対立をもたらし、さらに教会史の記述に反映されていきました。
私は博士論文で亡命者の教会に焦点を当て、対立が固定化するまでの教会指導者の立場の変遷と、それに伴った言説の質を歴史的に解明することに取り組みました。より平易な表現でいえば、苦難の時代にロシア正教会の主教たちがどのような言葉を介して信徒を導こうとしたのかを解明しようとしたといえます。
今は、その成果と結果を踏まえ、改めて方法論の研究に取り組んでいます。

Q: 資料や方法論は?
A: 亡命ロシア人は各地の移民コミュニティで雑誌、新聞を発行した他、教会会議の議事録や重要人物の回顧録を出版しました。アメリカにはその種の文書を保管している大学と修道院があり、私はそこで資料を収集して研究に用いました。
他方、ソ連には、観念論として批判された記号論をマルクス主義と矛盾しない形に整え、さらに文化と歴史の解釈のための理論に発展させようとした学派があり、私はその成果の一部を方法論として用いました。

Q: どんな発見がありましたか?
A: 方法論に基づいてテクストをトレースすることの大切さを学びました。
博士論文では、ソ連時代の教会内の不和と対立は、無神論政府による教会迫害という歴史的な政治状況に加え、この状況の中で顕在化した(平時には顕在化しなかった)教会指導者の共同体論と神学歴史論に関連していることなどを発見しました。

Q: 今後の展開、展望は?
A: 私の博士論文は2通りの批判を受けました。1つは教会関係者から、もう1つは文学研究者から。
1つ目は、私の論述が教会指導者の弁護になっていないことへの不満の表れで、苦難の時代を生きた先人への敬意に欠けているということなのでしょう。
これは方法論を優先したことの必然的な結果であり、そのバランスが難しいと思っています。
2つ目は、方法論の意義についての疑義です。私の研究は、在外ロシア正教会という、日本でよく知られていない歴史の事例を、ロシア文化記号論という、やはり日本でよく知られていない理論で解釈するものだったからです。
そこで今は、ロシア文化記号論の成果を再検討し、その説明のためによりよい事例を探しています。その蓄積ができたら、改めてロシア正教会の問題に取り組みたいと思っています。
(2010年度学術奨励賞受賞 東海大学国際教育センター)
  高井ヘラー 由紀  台湾キリスト教史
No.2 2016-05-10
Q: 研究テーマと主要な関心事は何でしょうか?
A: 研究対象としているのは台湾のキリスト教史です。
日本統治期が主ですが、最近は戦後も射程に入れています。台湾では、異民族支配や文化的多元性というファクターが非常に重要な意味を持っています。キリスト教を通じてどのように、異なる文化的・民族的背景を持ち、「支配?被支配」などの不均衡な政治的力関係に規定されていた人々の間に関係が築かれたのか、あるいは築かれなかったのか、という問いや、政治的領域における主体性を奪われていた人々が、いかに信仰運動の中に主体性を見出そうとしたのか、などの問いに関心があります。

Q: 資料や方法論は?
A: 教会系の定期刊行物、たとえば台湾長老教会発行『教会公報』、『福音新報』などの日本のキリスト教雑誌、英国長老教会のThe Messenger、カナダ長老教会のThe Presbyterian Record、戦後では台湾内の複数のキリスト教雑誌、などに網羅的に目を通すことを基礎作業ととらえています。各個教会の記念誌や関係者の回顧録、インタビューなども参考にします。
基本的には極めてシンプルに、集めた資料から見えてくる事実と対話しながら叙述を構築し、そのプロセスにおいて鍵となる概念を抽出する方法をとります。議論に普遍性を持たせるために、既存の理論的概念と絡ませることもあります。

Q: どんな発見がありましたか?
A: 外部からの政治的支配は、支配される側の人々の間に亀裂を生み出します。異質な文化や言語や価値観が押し付けられる時、同化する人々としない人々との間に亀裂が生じ、受けた教育の違いによって世代間に大きな溝が生じます。
戦前の台湾キリスト教徒は、同化の最大のツールである近代日本教育を受ける機会に恵まれていたので、その傾向が顕著でした。戦前もそうですが、戦後台湾における「本省人 vs. 外省人」間の亀裂のうちにも、アジアにおける日本帝国主義政策のひずみが色濃く反映されていることを思うとき、日本人のキリスト教史研究者として道義的責任を負っていることを感じさせられます。

Q: 今後の展開、展望は?
A: 台湾の各個教会を回って、非公認だった戦前の台湾人YMCA運動の史料が残っているかどうかを調べたいと思います。また、戦後の先住民族におけるキリスト教の広まりについて、自分なりにテーマを設定して追究しようと考えています。
(2014年度学術奨励賞受賞 明治学院大学)
  馬渕 彰  イギリス・メソディスト運動の歴史研究
No.1 2015-10-31
Q: 研究テーマと主要テーゼは何でしょうか?
A: 「メソディスト運動の創始者たちが、イングランドの労働運動の精神的祖だった」、「ヨーロッパ各地で革命や暴動が勃発した19世紀、イングランド社会はメソディスト派の影響により革命の危機を免れることができた」とのテーゼを、20世紀初頭にフランスの哲学者E.アレヴィが示しました。
彼のテーゼをめぐって激しい論争が、1960年代から1970年代にかけてなされました。
この論争で出された数々の論点を念頭に置きながら、私もメソディスト派と19世紀イングランド社会との間でなされた相互作用について史学的手法を用いて調査を続けてきました。

Q: 資料や方法論は?
A: イギリス留学中にまとめた博士論文以降、私は1872年にイングランドで設立された全国農業労働者組合とキリスト諸派との関係を中心に調べています。
この労働組合はイングランド各地の農村に次々に組合支部を設立し、労働争議や国内外移住政策、選挙法改正運動、共済組織設立、土地法改正運動といった異なる内容の諸政策を精力的に展開しました。
組合のこれらの各政策に対して英国国教会やメソディスト派、バプティスト派、会衆派などの地方教会の指導者や会員がどのように応じたのかを、私は研究対象をイングランド南部(サリー、バークシァ、ウィルトシァ、ドーセット、ハンプシァの五州)やイースト・アングリア地方に絞り、全国農業労働者組合の機関誌や各州の地方新聞、各教派の定期刊行物や地方教会の議事録などを主要な史料として用いて調査してきました。

Q: どんな発見がありましたか?
A: アレヴィのように、教派の枠組みを便宜上、あるいは一種の物差しとして用いて社会や政治や文化とキリスト教の関係について分析したり説明したりすることはよくあります。
しかし、そのような手法で得た仮説を無批判に援用して論を進めていった場合、私たちが描く歴史像が過去の人々の実態から恐ろしいほど乖離していくといった深刻な問題を、これまでの自分の研究を通じて学びました。

Q: 今後の展開、展望は?
A: 今後は、上述の研究以外にも、18世紀のメソディスト運動に対してなされている伝統的な歴史解釈を再検討したり、また、19世紀末や20世紀初頭の帝国主義時代や戦間期の国際政治や国際社会でのメソディストたちの活動を調査したりもしてみたいと考えています。
(2011年度学術奨励賞受賞 日本大学法学部)

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